弁護士費用を認める基準が高すぎる
OCTANE FITNESS, LLC v. ICON HEALTH & FITNESS, INC., Appeal No. 12-1184において最高裁は、米国特許法285条に基づいて弁護士費用を否定した地裁の判決を維持したFederal Circuitの判断を破棄し、差し戻した。
Icon社は特許侵害を理由としてOctane社を訴えた。地裁がOctane社に非侵害の略式判決を認めた後、Octane社は285条にに基づく弁護士費用の認定を求めて申立を行った。Federal CircuitはBrooks Furniture Manufacturing, Inc. v. Dutailier International, Inc., 393 F.3d 1378 (Fed. Cir. 2005)のフレームワークを適用し、Octane社の申立てを認めなかった。 Brooks事件によると、事件は次の2つの状況下でのみ285条により「例外的」であるとみなされる、つまり(1) 重大な不当行為が行なわれた場合、または(2) 事件が主観的な悪意により訴訟が提起されたうえに客観的に正当性を欠く場合でなければならない。さらにBrooks事件では、285条に基づく弁護士費用が認められるためには、立証事項を明白かつ説得力のある証拠をもって証明しなければならなかった。Federal Circuitは地裁の判断を支持し、Brooks事件以来、例外性の定説としている基準を再考することを拒否した。
最高裁は、285条の文言は明確であると指摘したうえで、「『例外的』なケースとは、単に(準拠法と事件の事実の両方を考慮して)当事者の実質的な訴えが他の事件に比べて顕著であるようなケース、または不当な争い方が用いられたケースを意味する」と判示した。Federal Circuitの判決を破棄する際に、最高裁はFederal Circuitが適用したBrooks事件のフレームワークは「過度に厳格である」との見解を示した。まず最高裁は、例外的な(したがって、弁護士費用を認められるのに値する)行為は、それだけで制裁の対象となり得るほど重度の不当行為にまで達している必要はないため、Brooks事件の制裁の対象の可能性という一つ目の基準は不適切であると判断した。次に最高裁は、Brooks事件の第二の基準が求める二重の要件である主観的な悪意および客観的な正当性の欠如に関して、 Federal Circuitが(Professional Real Estate Investors, Inc. v. Columbia Pictures Industries, Inc., 508 U.S. 49 (1993) (以下「PRE」)から)誤った形で285条に持ち込んだものであると認定した。最高裁は、(PRE事件のような)独占禁止法事件における二重の要件を「弁護士費用の負担者の単なる変更」に適用することは正当化できないとの懸念を表した。そのうえで最高裁は、Brooks事件の基準は285条をほとんど役立たずの条文にしてしまうことを理由にその適用を拒絶した。最後に最高裁は、285条に基づく例外性を立証するのに適切な基準は証拠の優越であり、Federal Circuitが要求した明白かつ説得力のある証拠の基準ではないと判示した。
HIGHMARK INC. v. ALLCARE HEALTH MANAGEMENT SYSTEM, INC., Appeal No. 12-1163において最高裁はFederal Circuitによる(地裁判決の)一部取り消しを破棄し、差し戻した。
Highmark社は、特許の無効、強制不可能性および非侵害の認定を求めて、Allcare社に対する確認判決訴訟を提起した。地裁がHighmark社に非侵害の略式判決の申し立てを認めた後、Highmark社は285条にに基づく弁護士費用の認定を求めて申立てを行った。地裁は事件が「例外的」であるとして、Highmark社の申立てを認めた。控訴審において、Federal Circuitは地裁の判断を覆審で審査(de novo review)し、認定事実の一部を取り消した。Federal Circuitは、Brooks Furniture Manufacturing, Inc. v. Dutailier International, Inc., 393 F.3d 1378, 1381 (Fed. Cir. 2005)における主張が「客観的を正当性を欠く」かどうかは法律問題と事実問題を併せ持つため、Federal Circuitが覆審で審査を行なうのは理にかなっていると判示した。
最高裁はHighmark事件をOctane Fitness, LLC v. Icon Health & Fitness, Inc.事件に対比させて考察し、Federal Circuitの判断を取り消して事件を差し戻すに当たりOctane事件での理由付けを適用した。最高裁がHighmark事件において考察した主な争点は、285条にいう例外性の判断に適用するのに適切な審査基準であった。最高裁は、285条が例外性の判断を地裁の裁量に委ねている、また地裁が長期間にわたり審査の過程で事件に接することから、事件が例外的であるか否かを判断するのに適切な立場にあると判示した。そのため、控訴審では、地裁の285条に関する判断のあらゆる事項について、裁量の濫用があったかについてのみ審査しなければならない。
FRANDの制限のある特許は終局的差止め命令の適格性なし
APPLE INC. v. MOTOROLA, INC., Appeal No. 12-1548においてFederal Circuitは、means-plus-function(手段プラス機能)に関するクレームの解釈を取り消し、損害に関する専門家証言の排除を取り消し、さらにApple社の損害賠償請求権を否定した略式判決を取り消す一方で、Motorola社に差止命令を認めなかった略式判決を支持した。
Apple社とMotorola社は数々の特許をめぐって互いに訴えを提起した。地裁はそのクレームの解釈に基づいて、クレームの大部分に関して非侵害の略式判決を認め、また両当事者の専門家証人が損害について行なった証言の大多数を排除した。地裁はまた、どちらの当事者も損害賠償または差止命令について権利を有しないとの略式判決を下した。
Federal Circuitは地裁によるクレームの解釈を審査した。Apple社の複数の特許の一つについて、Federal Circuitは、地裁が「heuristic for(ヒューリスティック)」という用語を含むクレームの制限をmeans-plus-functionの限定というように解釈したことを誤りと判断し、同解釈を取り消した。限定がmeans-plus-functionの形式で記載されていることの判断を含むクレームの解釈は覆審で審査される。Federal Circuitは、用語heuristic-forの限定は、全体として見て明細書の観点からは、十分に限定された構造になっているため、限定はmeans-plus-functionの形式ではなかったとの強力な推定に反論しなかったと判断した。特にApple社の特許は明細書の中でそれぞれのインプットに対応するアウトプットを記載して操作上の制限を明記しており、それにより十分な構造を提供している。
Federal Circuitはまた、損害に関する専門家証言の排除も審査した。Federal Circuitは第7巡回区控訴裁の法理を適用して、地裁が採用した法理のフレームワークおよび専門家証言の排除の決定について裁量の濫用があったかどうか覆審で審査した。Apple社が提出した専門家証言の排除に関してFederal Circuitは、地裁が専門家の結論に同意しなかったか、専門家が代わりの優れた方法を使うことができたと考えたため、証拠能力ではなく証拠の証明力を誤って判断したと述べ、地裁の判決を取り消した。Apple社の損害賠償額に関する専門家は、クレームされた発明に類似する機能を持つ既存の製品から証言を始め、これらの機能の価値を分離させようとした。損害賠償額専門家はまた、既存の製品の機能の価値を評価するためにApple社の技術専門家に依拠した。損害賠償額専門家はさらに、消費者が同等の機能にどのくらい支払ったかについて評価することにより、クレームされた機能に対する消費者の需要を見積もった。損害賠償額の算定には他の手段があるかもしれないが、それがあるからといって、信頼できる専門家証言が証拠能力を欠くことにはならない。Motorola社の賠償額に関する専門家証言の排除に関してFederal Circuitは、一部について支持し、他の一部を取り消した。Federal Circuitは、実施許諾に関する専門家が提出した理論に依拠した専門家証言の一部排除を、その理論がクレームされた発明に関係がないことを理由に維持した。Federal Circuitは、専門家の証言がその分野で十分に同等である実施許諾に基づいて行なわれ、それが合理的な実施料を算出する信頼できる方法であったことから、損害賠償額に関する専門家証言の残りの部分の排除を取り消した。
Federal Circuitはまた、Motorola社による侵害があったと仮定された場合のApple社への損害賠償を認めないとした略式判決を覆審で審査した。裁判所は合理的な実施料以上の損害賠償を認めることを法律は要求している。Apple社が合理的な実施料はゼロより大きいことを証明する証拠を提出し、損害賠償が認められるべきであることを示す重大な事実に関わる真正な争点を証明したことを理由に、Federal Circuitは損害賠償を認めないとした略式判決を取り消した。
Federal Circuitはさらに、Motorola社が同社の特許に対するApple社による侵害について差止命令を求める権利を有しないとした略式判決を覆審で審査した。差止命令の認定または否定については地裁の裁量の濫用の有無をめぐって審査された。Motorola社は、問題とされる特許を公平、合理的、かつ非差別的な(「FRAND」)実施条件で許諾する合意をしていた。eBay Inc. v. MercExchange, LLC, 547 U.S. 388 (2006)事件において最高裁が用いた条件を分析し、Federal Circuitは地裁の判断を支持し、FRANDの特約に従う特許権者の場合によくあるように、Motorola社のそのような特約に基づく多数の実施許諾契約は、損害賠償金が侵害を弁償するのに十分であることを示したとの理由でMotorola社が回復不可能な損害を立証しなかったとの結論を下した。
Rader判事は、Apple社が不本意な実施権者であることを示すMotorola社の証拠から、同判事としては差止命令の否定に関してApple社に略式判決を認めなかったであろうと述べて、部分的に不賛成の意見を提出した。Prost判事は、多数派の判断がクレームの文言以外の部分の構造に着目したことによりmeans-plus-functionの分析で誤りを犯したと述べて、部分的に不賛成の意見を提出した。
IPRを開始するか否かについての審決は直ちにレビューできるものではない
IN RE PROCTER & GAMBLE CO., Appeal No. 14-121、ST. JUDE MEDICAL, CARDIOLOGY DIVISION, INC. v. VOLCANO CORP., Appeal No. 14-1183、およびIN RE DOMINION DEALER SOLUTIONS, LLC, Appeal No. 14-109においてFederal Circuitは当事者系レビュー(IPR)を開始するか否定するかの審決は直ちに審査できるものではないと判示した。
St. Jude社はPTO(特許商標局)のIPRを開始しないとの審決を不服として控訴した。St. Jude社は、合衆国法典第28編1295条(a)(4)(A)に準じて、Federal Circuitが控訴を審理する管轄を持つと主張した。法典はFederal CircuitにPTAB(特許審判部)のIPRに関する「審決に対する不服申立て」を審理する権限を認めている。特許権者のVolcano社と参加人のPTOは控訴において、IPRを開始するか否かに関するPTOの審決は「最終的で不服申し立てできない」と規定する特許法314条(d)に依拠して、管轄権の不存在を理由に棄却の申し立てを行なった。Federal Circuitは、法律がIPRを開始するか否かにかかわらずFederal CircuitがPTOの審決に対する控訴を審理できないようにしていると解釈して、申立てを認めた。
Dominion事件とProcter & Gamble事件はそれぞれIPRの開始の申立てに関する審決を変更するようPTOを指示する職務執行令状の発行を求めるFederal Circuitへの申立てに関わるものである。Dominion事件において、PTABは5件のIPRに関する申立てを退け、侵害の疑いを受けたDominion社はPTOに5件のIPRを開始するよう命令する令状の発行を求めた。Procter & Gamble事件においては、PTABは3件のIPRに関する申立てを認め、特許権者のProcter & Gamble社はPTOにIPRを開始する命令を取り下げるよう令状の発行を求めた。DominionとProctor & Gambleの両事件においてFederal Circuitは令状発行の申立てを認めなかった。Federal Circuitは、法律のフレームワークはIPRを開始するか否かに関するPTOの審決をFederal Circuitがレビューすることを認めないとの、St. Jude事件において同裁判所が申立てを認めた際に使用したのと同じ理由付けを採用した。法律のフレームワークの下では少なくとも、DominionとProcter & Gambleのどちらも、救済を受ける「明確で議論の余地のない」権利を証明することができないが、この証明は職務執行令状による救済を受けるためには必要である。
VAILLANCOURT v. BECTON DICKINSON & CO., Appeal No. 13-1408においてFederal Circuitは、特許権者のみが当事者系再審査における最終審決に対して控訴することができると判示して、訴訟原因の不存在を理由に控訴を棄却した。
被控訴人Becton Dickinson社はVaillancourtの特許に対する当事者系再審査を申請した。審査官は全てのクレームを拒絶し、これに対してVaillancourtは審判部に不服申し立てを行なった。申立ての審査中、Vaillancourtは特許に対する権利、権原、および利益の全体を第三者であるVLVに譲渡した。審判部は審査官の審決を支持した。Vaillancourtは特許法141条に基づいてFederal Circuitに控訴した。
Federal Circuitは、141条は明確な文言で特許権者のみが当事者系再審査における最終審決に対してFederal Circuitに控訴することができると規定している、と判事した。Vaillancourtは同人が特許を所有しない点については争わなかった。その代わりVaillancourtは、(1)主張されたところによると、同人が特許訴訟手続きに関するあらゆる事項を継続する権原をVLVから付与されていた、また(2)同人がVLVの唯一の所有者であったことを理由に、同人に控訴する権利があると主張した。Federal CircuitはVaillancourtの主張を退けた。法律は特許権者が自己の控訴権限を第三者に委任することができるとは明示していない。したがって、Vaillancourtの控訴は訴訟原因を欠き、棄却された。