外国で着想された発明は先行技術
Federal Circuitは、SOLVAY, S.A. v. HONEYWELL INTERNATIONAL INC. (Appeal No. 12-1660) において、外国で着想された発明の実施化は旧特許法102条(g)(2)に基づき先行技術として認められるという地裁の認定を支持した。
Solveyは、特許侵害を理由にHoneywellを提訴していた。Honeywellは、Solvayのクレームは、クレームされている主題がロシアでロシア人の発明者によって着想され、その発明者によって未公開のロシア特許出願の中で開示されており、さらにHoneywellがこの発明をSolvayの優先権主張日より前に米国内で実施していたため無効であると反訴した。Federal Circuitは、前判決では、Honeywellは発明の着想者ではなかったため旧特許法102条(g)(2)に基づけば同項にいう「他の発明者」には該当しないと判断し、地裁の無効認定を覆していた。差戻し審において、Solvayが権利主張していたクレームは、今度は問題のロシア人発明者が発明を実施化するのに用いられた指示をHoneywellに送ることによって米国内で当該発明を行ったことになるというHoneywellの代替理論に基づき、再び102条(g)(2)に基づいて新規性が欠如していると認定された。陪審は、当該の主題に関するロシア人発明者自身の未公開のロシア特許出願は102条(g)(2)に基づく開示に相当するため、発明者は発明の放棄、秘匿、隠匿は行わなかったという評決を出した。
Solvayは無効認定を不服として上訴した。争点となったのは、ロシア人発明者の指示あるいは要請の範囲外で行われた米国内での実施化が、発明者の利益のために効力を生じ、外国で着想され米国で実施された発明が「別の発明者によって米国内で行われた」発明に相当するか否かという点であった。発明者とHoneywellは共同研究契約に基づいて活動を行っていた。
Federal Circuitは、Honeywellが米国内で発明を実施化したことは、同法の文言が示す要件を満たしていると判断した。利益帰属の原則の評価においては、Federal Circuitは、第三者の行為が発明の「不当かつ敵対的な使用」でなければ、発明者が発明の第三者による実施化から恩恵を受けると判断した。
Newman判事は反対意見を述べ、この判決は、インターフェアランスにおける同様の行為は許されていないにもかかわらず、102条(g)(2)下ではクレームの新規性を否定するために「私的な秘密の行為」、つまり外国の特許庁に出願されてはいるが未公開の外国発明を米国内で秘密裏に評価する行為を許すことになると主張した。
クレーム無力化は均等論の適用から除外されない
Federal Circuitは、RING & PINION SERVICE INC. v. ARB CORP. (Appeal 13-1238) において、非侵害の略式判決を覆し、侵害の略式判決の指示とともに事件を差し戻した。
R&Pは、同社がARBの所有する特許を侵害していないという確認判決を求めて提訴していた。両者は、被疑製品が「シリンダー」に関する限定を除き、代表クレームに記載されている限定をことごとく満たしているという点について訴訟上の合意を結んだ。両者はさらに、被疑製品が「均等物」であるシリンダーを含んでいたという点についても合意した。両者は互いに略式判決を求める申立てを堤出し、本件の結果は、均等物が特許出願時に予見可能であったために均等論に基づいて阻却事由となるか否か、という1つの法的問題の解決によって決定されるであろうという点で合意した。地裁は、予見可能性は均等論適用の阻却事由とはならないが、均等論に基づく侵害認定は「シリンダー」に関する限定を無力化すると判断した。地裁はR&P側に侵害なしとする略式判決を与えた。ARBはこれを不服として上訴した。
Federal Circuitは、クレームの無力化は均等論の適用から除外されないため、地裁が司法過誤を犯したと判断した。さらに、両者の合意には被疑製品が「シリンダー」に関する限定の均等物も含んでいると述べられていたため、クレーム無力化の認定も除外されていた。 Federal Circuitは、予見可能性は均等論適用上の阻却事由とはならないという点に関しては地裁と同意見であり、この結論から合意に従って侵害判決に至るべきであったと判断した。
限定の範囲が不確定的ではないと判断されたケース
Federal Circuitは、TAKEDA PHARMACEUTICAL CO. v. ZYDUS PHARMACEUTICALS USA, INC. (Appeal No. 13-1406) において、地裁の侵害認定は覆したが、クレームの有効性に関する判決は維持した。
Takedaは、胃食道逆流症治療薬に関する製剤特許の侵害を理由にANDA申請者であるZydusを提訴していた。この特許のクレーム1には、「平均粒径が400マイクロメートル以下である微細な顆粒」を用いた製剤が記述されている。地裁は、この文言が±10%の許容誤差範囲内の粒径を含むと解釈した。地裁はこのクレーム解釈に基づき、Zydusの製品がTakedaの特許を侵害したと判断した。地裁はまた、問題のクレームが確定性、記述および実施可能性に関する要件に従っていなかったために無効であることをZydusが証明しなかったと判断した。Zydusはこれを不服として上訴した。
Federal Circuitは、地裁の侵害認定を覆し、問題のクレーム文言の適切な解釈は「平均粒径が正確に400マイクロメートル以下である微細な顆粒」であると結論した。Federal Circuitの解釈は、最大粒径が「実際的には425マイクロメートル以下」と明細書に開示されている事実に基づいている。 明細書中3箇所で「about (約) 」という言葉が使用されていることは、クレーム範囲を10%拡張する正当な理由とはならない。そのため、Federal Circuitは地裁の有効性認定を支持した。Zydusは、クレームが平均粒径を測定する方法を具体的に示していないため不確定的であると主張した。この主張を退けるにあたり、Federal Circuitは 「異なる測定方法によって異なる結果が出る可能性があるというだけ」では、クレームは不確定的であることにはならないという判断を示した。実施可能性については、Federal Circuitは、問題の特許では実現可能な測定方法を1つ挙げているため、当業者であれば粒径の測定方法の使い方を知っていることに議論の余地はないと判断した。
クレーム解釈の審理は覆審として行う
Federal Circuitの大法廷は、LIGHTING BALLAST CONTROL LLC v. PHILIPS ELECTRONICS NORTH AMERICA CORP. (Appeal No. 12-1014) において、従前の合議体判決を復活させ、Cybor Corp. v. FAS Technologies, Inc., 138 F.3d 1448 (Fed. Cir. 1998) (en banc) で確立されたクレーム判断は覆審で審理するという基準を支持した。
Federal Circuitは、原告である上訴人のLighting Ballastの上訴に対し、クレーム解釈問題は覆審により審理するという先例を確立したCybor判決について再考するために、大法廷による審理を認めた。この新たな大法廷判決では、(a) Federal CircuitがCybor判決を覆すべきか、(b) Federal Circuitが地裁のクレーム解釈の各部分を尊重すべきか、そして (c) 尊重すべき場合にはどの部分を尊重すべきかの3点が検討された。
Federal Circuitは、主に先例の拘束性に基づき、6対4でCybor判決の覆審審理基準を支持した。よって、Federal Circuitは、「voltage source means (電圧供給手段) 」という限定は特許法112条第6段落の適用を必要としないという地裁の解釈を覆し、合議体判決を復活させた。
O’Malley、Rader、Reyna、Wallachら4人の判事は反対意見を述べ、クレーム解釈を行うには地裁が事実問題を解決する必要があると主張した。反対意見では、その結果、Cybor判決はMarkman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370 (1996) 判決などの最高裁の先例を誤解し、地裁の事実認定を尊重する必要を定めている連邦民事訴訟規則第52条(a)(6)に反すると指摘した。