最高裁が新たな不確定性判断基準を確立
連邦最高裁は、NAUTILUS, INC. v. BIOSIG INSTRUMENTS, INC. (Appeal No. 13-169) において、Federal Circuitの確定性判断基準が緩やかすぎることを理由に、一審の略式判決を破棄したFederal Circuitの判決を取り消し、事件を差し戻した。
Biosig社は、Nautilus社のエクササイズマシンが同社の特許を侵害したと主張し、特許侵害訴訟を提起していた。Biosig社の特許は「互いに間隔をあけて (中略) 設置されている」「活性」電極と「共通」電極を含む心拍数モニターをクレームしている。地裁は、「互いに間隔をあけて」というクレーム文言が特許法112条第2段落の確定性要件を満たしていないことに基づき、略式判決を求めたNautilus社の申立てを認めた。Federal Circuitは、特許クレームは「解釈しやすい」ものであり「解釈不能に曖昧」でない限り確定性の基準を満たすと認定し、地裁判決を覆して事件を差し戻した。
最高裁は、Federal Circuitの基準は特許法の確定性要件を満たしておらず、裁判所が信頼できる指針が不在のままになるおそれがあると判断した。最高裁は、特許は、そのクレームが明細書および出願経過を踏まえて読んでも発明の範囲について合理的な確証がもてる情報を当業者に提供しない場合には、不確定性により無効である、と判断した。最高裁は、この基準は、言語の本質的限界を考慮に入れるだけでなく、特許はクレームの対象を明確に伝えられるよう十分明確に書かれていなければならないことを要求してもいると強調した。よって前判決を取り消し、適切な基準に基づいて再検討させるために事件をFederal Circuitに差し戻した。
最高裁、誘発侵害が成立するには直接侵害がなければならないと裁定
最高裁は、LIMELIGHT NETWORKS, INC. v. AKAMAI TECHNOLOGIES, INC. (Appeal No. 12-786) において、特許法271条(b)に基づき誘発侵害があったと認定したFederal Circuitの判決を覆し、事件を差し戻した。
Akamai社は、分散されたウェブサーバ上にコンテンツの構成要素を格納するよう指定する方法をクレームしている特許の独占的実施権者である。Limelight社は、クレームされている方法の一部のステップを実施しているが、この「タグ付け」のステップを実施しているのは同社の顧客である。陪審はLimelight社に侵害責任ありと認定したが、地裁は、直接侵害は存在しない、という法律問題としての判決を下した。その後、Federal Circuitの合議体は、Limelight社とその顧客との間には代理関係も契約上の義務もないことから、顧客がステップの一つを実施しても同社は責任を負わないと判断し、地裁判決を支持した。しかし大法廷による審理の後、Federal Circuitは、一部のステップを実施し残りのステップの実施を他者に勧めた被告は、直接侵害の責任を負う者がいなくても誘発侵害の責任を有する可能性があると判断し、合議体の判決を覆した。
最高裁は、「誘発侵害の責任が成立するには直接侵害がなければならない」と述べ、この判決を覆した。最高裁は、Federal Circuitの分析は「方法特許の侵害の意味を基本的に誤解」しており、確認できる基準を271条(b)から奪うものだと説明した。さらに最高裁は、連邦議会が直接侵害を構成しない行為に対し責任を課すために271条(f)(1)を立法した経緯があるため、271条(f)(1)は最高裁の271条(b)の解釈を裏付けていると結論した。この例を根拠として、最高裁は271条(b)の「概念を拡張しない選択を連邦議会が行っている部分で (中略) 最高裁が責任を生じさせるべきではない」と述べた。
最高裁は、不法行為法に基づいて第三者を通じて他者に被害を及ぼす被告には責任を課すというAkamai社の主張も退けた。最高裁は、「直接侵害は犯されていない」という点と、原告の法的権利が侵害されていないのに責任を課すことを支持している不法行為判例は存在しないという点を強調した。同様に、最高裁は、連邦議会が1952年の特許法を制定した際に犯罪幇助の法理を念頭に置いていたとは考えられないとして、271条(b)を犯罪幇助に関する連邦刑法2条になぞらえたAkamai社の主張も退けた。裁判所は、方法特許のステップを他者と分割して実施することにより、侵害者となる者が責任を回避する可能性があるという懸念は認識したが、この懸念があるからといって誘発侵害責任の成立要件を根本的に変えてしまうことは正当化できない、と結論した。
特許が抽象概念を対象としているとして最高裁が無効判断を下した事例
最高裁は、ALICE CORP. v. CLS BANK INTERNATIONAL (Appeal No. 13-298) において、特許法101条に基づきどのクレームも特許不適格な主題を対象としていると判断し、Federal Circuit判決を全員一致で支持した。
Alice社は、第三者である仲介者としてコンピューターシステムを使用することによって二者間の「決済リスク」を軽減する仕組みを開示している複数の特許を所有している。問題の特許がクレームしているのは、(1) 債務を交換する方法、(2) その方法を実行するように構成されたコンピューターシステム、そして (3) その方法を実行するプログラムコードを含んでいる、コンピューターで読み取り可能な媒体である。地裁は、Bilski v. Kappos, 561 U. S. 593 (2010) の前例に従い、どのクレームも抽象概念を対象としているため、特許法101条に基づき特許の保護を受けるには不適格であると判断した。Federal Circuitの大法廷は一審判決を支持した。
最高裁も、問題のクレームが抽象概念を対象としているため101条に基づいて特許不適格と判断し、前判決を支持した。最高裁は、Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc., 569 U. S. ___ (2013) およびMayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U. S. ___ (2012) で用いた枠組みに従い、まずクレームが特許不適格な概念を対象としているかどうかを判断し、次に、クレームの要素を個別に検討した場合と所定の順番通りの組み合わせとして検討した場合に、クレームの性質が特許適格な出願発明のものへと変化するかどうかを分析した。最高裁は、具体的には、問題のクレームが対象としているのは、米国の商業制度の中で長年広く行われてきた基本的経済慣行である「仲介を経た決済」という抽象概念であると判断した。次に、最高裁は既存の枠組みの第二のステップに依拠し、コンピューターを加えることによってこの抽象概念が特許適格とはならない、と判断した。クレーム要素を個別に検討した場合、それぞれのステップでコンピューターにより実行される機能は「慣習にすぎない」。また、「所定の順番通りの組み合わせとして」検討した場合にも、これらのコンピューター要素は「それぞれのステップを個別に検討したときに既に存在していなかったものに何も加えなかった」。全体として見た場合にも、これらの方法クレームは、普通のコンピューターによって実行される「仲介を経た決済」という概念を述べているにすぎない。最高裁は、この方法クレームは「例えば、コンピューター自体の機能を向上させると称しているわけでもなく」、「他の技術や技術的分野における向上をもたらす」わけでもないという見解を述べた。それどころか、不特定の普通のコンピューターを使用した「仲介を経た決済」という抽象概念を適用することは、抽象概念を特許適格な発明に変えるにも「十分」ではなかった。
Alice社のシステムと媒体に関するクレームは、基盤である抽象概念に何ら実質的なものを加えていないため、それらも101条に照らして特許不適格であった。最高裁は、101条を「特許適格性を『起案者の技量だけに依存』させるように」解釈することに対する警告を再び発した。最高裁は、システムと媒体に関するクレームを特許適格と判断すれば、まさにその通りの結果をもたらすだろうという見解を述べた。
同意意見においては、3人の判事が問題のクレームが抽象概念を対象とするものであったという点に同意するとともに、ビジネスメソッド特許は101条にいう「プロセス」には該当しないという立場をとった。