RAND誓約は損害賠償額算定時に考慮すべき関連事項
Federal Circuitは、ERICSSON, INC. v. D-LINK SYSTEMS, INC. (Appeal No. 2013-1625、-1631、-1632、-1633) において、侵害を認めた地裁判決の一部を支持するとともに一部を覆し、損害賠償裁定額を無効として事件を差し戻した。
Ericsson社は、係争特許3件においてクレームされているWi-Fi技術の開発者である。IEEE (米国電気電子学会) は、クレームされている技術を802.11(n) 規格として採用した。この規格は、すべての準拠機器に本件特許技術を使用することを義務付けており、したがってEricsson社は、申請者の数に制限なく「reasonable and non-discriminatory」(RAND) 条件、すなわち妥当で公平な条件でライセンスを供与することを誓約しなければならなかった。D-Link社は、本件特許技術を採用した802.11(n)準拠の最終製品を製造していた。地裁は、権利主張されていたすべての特許に関する陪審の侵害認定も損害賠償裁定額も乱すことを拒絶した。陪審は、Georgia-Pacific Corp. v. U.S. Plywood Corp., 318 F. Supp. 1116 (S.D.N.Y. 1970) で確立されたライセンス供与時の実施料率を算定する際に用いる15の要素を考慮するようにという地裁の説示に基づき、1千万ドルの損害賠償額に相当する侵害デバイス1台につき15セントという実施料率を裁定した。
侵害問題に関しては、Federal CircuitはD-Link社がEricsson社が権利主張していた特許のうち2件を侵害したと判断し、地裁の裁定の一部を支持するとともに一部を覆した。Federal Circuitは、損害賠償裁定額については無効とし、差し戻した。本件特許技術が規格として採用されているため、Ericsson社にはRAND条件に基づきイセンスを提供する義務がある。RAND条件下では、Ericsson社は「不公平な差別がないことが実証できる妥当な契約条件において、妥当な実施料率で申請者の数に制限なく全世界的にライセンスを供与する」ことを具体的に約束したことになる。
Federal Circuitは、Georgia-Pacific 判決で確立された考慮要素の多くは本件には無関係であり、RAND条件に基づくEricsson社の義務に反してさえいると判断した。例えば、第4の考慮要素は、他者にライセンス供与しないことによって特許の独占を維持するライセンサーのポリシーに関するものである。しかし、Ericsson社はRAND誓約をしているため、独占は維持できない。同様に、第5の考慮要素は、ライセンサーとライセンシー間の商業的関係に関するものである。RAND条件下では、Ericsson社は非差別的な実施料率でライセンスを提供する義務があるため、この考慮要素は本件に無関係である。その他の考慮要素も、RAND義務を負っている特許については少なくとも調整する必要があるだろう。例えば、第8の考慮要素は発明の「現在の人気」を考慮するもので、これは業界規格に左右される可能性が高い。Federal Circuitは、無関係なまたは誤解を招く考慮要素 (Georgia-Pacific 判決で用いられた第4、第5、第8、第9、第10の考慮要素のように)ではなく、問題となっているRAND誓約そのものに関する説示を地裁が陪審に与えるべきであったと結論した。Federal Circuitは、その考慮要素が事件に関係がある場合にのみ、適切なGeorgia-Pacific 考慮要素を適用してもよいという見解を強調した。
インターネットを使用した活動は主題として無効
Federal Circuitは、DDR HOLDINGS, LLC v. HOTELS.COM, L.P. (Appeal No. 2013-1505) において、争点となっていたインターネットを使用した活動に関するクレームには特許法101条にいう特許適格な主題が記述されていたと判断した。
DDR社は、ホストウェブサイトの視覚的要素と第三者である販売事業者のコンテンツを組み合わせた合成ウェブページを生成するための装置および方法をクレームしている特許2件について権利を主張していた。陪審は、本件特許は侵害されており、無効ではないと判断した。被告は、特許法101条、102条、103条、112条に基づく特許無効のJMOL (法律問題としての判決) を求める申立てを改めて行ったが、地裁はそれらの申立てを却下し、被告は上訴した。
Federal Circuitは、101条に基づくJMOLの却下を支持した。Federal Circuitは、Alice Corp. v. CLS Bank International, 134 S. Ct. 2347 (2014) で最高裁が示した枠組みを適用し、本件のクレームはコンピュータを使用して実施したに過ぎない「インターネットが登場する以前の世界でも知られていたビジネス手法の実行を」広範かつ一般的に「記述」したものではなかったと指摘した。「むしろ、クレームされている解決方法は、コンピュータネットワークの領域で特に発生している課題を克服するために必然的にコンピュータ技術に根ざしたものである」という認識である。Federal Circuitは、本件のクレームは「2つのウェブページを同じに見せることによって売上を増やすというアイデアのあらゆる応用を先占しようとしているのではなく」、むしろ「合成ウェブページの生成を自動化する特定の方法を記述する」 ことによってAlice 分析の第2のステップにいう「追加の特徴」を提供していると指摘した。
Federal Circuitは、本件特許のうち1件に関する103条に基づくJMOLの却下を覆し、他のすべてのJMOL請求の根拠の却下は支持した。Federal Circuitは、112条に基づき不確定性を理由に特許無効とするJMOLの却下を支持するにあたり、被告が争点となっていた用語の意味を理解したと裁判時に認めていたことを指摘した。
一方、Mayer判事は反対意見において、本件のクレームは101条に基づき無効であるという意見を述べた。本件の特許は「2つのページを同様に見せることによって消費者に同じものと錯覚させる」という目的をクレームしているが、その目的を達成するための新技術も「発明概念」も開示してはいない、というのが同判事の見解であった。
日本企業、ターミナルディスクレーマーの撤回を許されず
Federal Circuitは、JAPANESE FOUNDATION FOR CANCER RESEARCH (公益財団法人がん研究会) v. LEE (Appeal No. 2013-1678、2014-1014) において、PTOがターミナルディスクレーマー (特許存続期間の末端放棄) の撤回を拒絶するにあたって恣意的かつ専断的に振る舞い、自庁の裁量権を濫用したとする略式判決を与えた地裁の裁定を覆した。
がん研究会は、問題のディスクレーマーは依頼人、外国の関係者と米国の弁護士との間のコミュニケーションの誤りによって提出されたものであると主張し、撤回を求める請願を提出した。PTOは請願を拒絶した。がん研究会はその後、行政手続法 (APA) すなわち5 U.S.C. 551条に基づきPTOの決定を不服として上訴する訴訟を地裁に提起した。地裁は、PTOにディスクレーマーの撤回を命じる略式判決を下した。
Federal Circuitは上訴審において、2つの理由からこの判決を覆した。1つ目の理由は、Federal Circuitが、がん研究会がコミュニケーションの誤りによってディスクレーマーを提出したことは、訂正または撤回の救済を認めることが可能な特許法255条にいう「事務的または印刷上の錯誤」に該当しないと判断したことである。Federal Circuitは、この法律が適用されるのは「一目瞭然である明白な綴り間違いのような単純な錯誤」であると説明した。さらに、255条による救済の対象となるのは書面に表れている錯誤のみであって、書類の提出そのものではない。2つ目の理由として、Federal Circuitは、Federal Circuitが恣意的かつ専断的な決定に関するAPAの基準に基づいて行政庁の決定を破棄できるのは、行政庁が誤った法解釈を適用することによってその裁量権を濫用した場合のみであると説明した。PTOの決定は、ディスクレーマーがMPEP (特許審査便覧) に示されている要件を満たしていたかどうかに基づくものであった。さらに、PTOには、弁護士と依頼人間のコミュニケーションの誤りを解決する機関ではないことから、請願を拒絶する裁量権があった。したがって、Federal Circuitは、PTOの自庁の手続および規則に関する解釈を尊重しなければならないという結論を出したのである。
構成要素の輸出により侵害が認定されたケース
Federal Circuitは、PROMEGA CORP. v. LIFE TECHNOLOGIES CORP. (Appeal No 2013-1011、-1029、-1376) において、主張されていたクレームは実施可能要件不備のため無効ではないとする原告の略式判決を求める申立てを認めた地裁の決定を覆し、また、被告の特許法271条(f)(1)に基づき非侵害とするJMOLを求めた申立てを認めた地裁の決定を覆した。
Promega社は、DNAサンプルに由来する1セットの「縦列型反復配列 (STR=short tandem repeats) 」座位に存在する対立遺伝子を同時測定する方法またはキットに関する自社の特許4件およびTautzの特許1件を侵害しているとして、LifeTech社を提訴していた。LifeTech社は、自社の遺伝子検査キットの構成要素1つを米国内で製造しており、これを英国の製造施設で組み立てるために輸出している。地裁は、Promega社の特許が実施可能要件を満たしていることは認めたが、裁判後に271条(f)(1)に基づき非侵害とするJMOLを求めたLifeTech社の申立てを認めた。
Federal Circuitは実施可能要件が満たされているとした地裁の認定を覆した。Federal Circuitは、本件の分野が予測不可能な分野であることを考慮すると、クレームに記述されていないSTR座位の組み合わせもクレーム範囲の一部となっていると結論した。Promega社は、本件特許を出願権利化する過程で、先行技術ではクレーム中に記述されているSTR座位の「特定のセット」を評価する方法が開示されておらず、このことは過度の実験なしにこの特定のセットを測定することは不可能であったため重要であり、本件のクレームは特許適格であると主張していた。Federal Circuitは、Promega社が侵害立証目的で今になって「主張を翻す」選択をすることはできないと述べ、Promega社の特許は過度の実験なく当業者がクレーム範囲全体を実施することを可能にしてはいなかったと判断した。
Tautz特許の侵害に関しては、Federal Circuitは、連邦議会は271条(f)(1)に基づく構成要素の第三者への輸出について企業の責任を制限していなかったばかりか、自社または外国にある子会社に向けた輸出も含めていたと結論した。さらに、Federal Circuitは、271条(f)(1)に基づき、輸出された1つの構成要素が被疑製品の「実質的な部分」である場合には、米国外で組み合わせられるようにその構成要素を供給したことまたは供給せしめたことについて当事者が責任を問われる場合があると判断した。よって、Federal CircuitはLifeTech社に侵害責任ありと判断した。
データ収集に関するクレームが無効と判断されたケース
Federal Circuitは、CONTENT EXTRACTION & TRANSMISSION, LLC, v. WELLS FARGO BANK, NATIONAL ASSOCIATION (Appeal No. 2013-1588、2013-1589、2014-1112、2014-1687) において、主張されていたデータ収集に関するクレームが特許不適格な抽象概念を対象としているため無効であることを理由に、連邦民事訴訟規則の12条(b)(6)に基づき訴訟却下を求める被告の申立てを認めた地裁の判決を支持した。
CET社は、ATMで収集された小切手のような印刷文書からデータを収集、認識、保管する方法をクレームした特許4件について権利主張していた。代表的な独立クレームには、「スキャナのような自動電子化装置を使用した」データの収集が含まれていた。地裁は、権利主張されていた特許はいずれも特許法101条に基づき無効であると判断し、この特許不適格という理由に基づいて、連邦民事訴訟規則の12条(b)(6)に基づき訴訟却下を求める申立てを認めた。
Federal Circuitは、地裁が訴訟却下を求める申立てを認めたことを支持した。Federal Circuitは、Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 132 S. Ct. 1289 (2012) とAlice Corp. v. CLS Bank International, 134 S. Ct. 2347 (2014) で用いられた2つのステップからなる特許適格性判断の枠組みを代表的な独立クレームに適用した。問題のクレームが抽象概念を対象としたものであったかどうかを検討する第1のステップでは、Federal Circuitは「データを収集し、認識し、保管する方法」という抽象概念が「周知のものであったことに議論の余地はない」という点に同意した。クレームが抽象概念の特許適格な応用であったかどうかを検討する第2のステップでは、Federal Circuitは、「文書からデータを抽出するためのスキャナまたはその他の電子化装置の使用」は周知の応用であり、クレームには「データを認識し保管するための既存のスキャンと処理の技術」の使用が記述されていただけに過ぎなかったと判断した。
CET社は、従属クレームには追加のステップが記述されており、そのためにそれらのクレームは特許適格性を有するようになっていたと主張した。Federal Circuitはこの主張を受け入れず、それらのクレームに記述されていたのは「スキャナやコンピュータが有する周知の慣例的な普通の機能」であったと結論した。したがって、「これらのクレームの範囲は代表的なクレームよりも狭いかもしれないが、どのクレームにも本来であれば特許不適格な抽象概念の特許適格な応用に対応クレームを変化させるような『発明概念』は含まれていなかった。」
Federal Circuitは最終的に、CET社にとって最大限に好意的に解釈しても、どのクレームも「印刷された文書から普通のスキャンと処理の技術を使用してデータを抽出し保管するという抽象概念を『遥かに超えた』」ものにはならなかったため、訴訟却下を求める申立てについて地裁が訴答手続段階で決定を下したのは適切であったと結論した。