確認判決訴訟において被告が立証責任を負わされたケース
最高裁は、MEDTRONIC, INC. v. MIROWSKI FAMILY VENTURE, LLC.(Appeal No. 12-1128)において、確認判決訴訟において特許権者が被告となり侵害被疑者が非侵害判決を求めている場合には侵害事実の証明責任が侵害被疑者側に移動するというFederal Circuitの判断を覆した。
MedtronicとMirowskiは、Mirowskiへのロイヤルティの支払いと引き換えにMedtronicが特定の特許を実施することを許諾するライセンス契約を締結していた。数年後、MirowskiはMedtronicに対し、Medtronicの7つの新製品がライセンスした特許2件のクレームを侵害しているとMirowskiが考えていると通告した。Medtronicは、クレームが問題の製品を対象としていないか、当該の特許が無効であるため、自社製品は当該特許を侵害していないと考えた。よって、Medtronicは、自社製品がMirowskiの特許を侵害しておらず当該特許が無効であるという確認判決を求めて、確認判決訴訟を提起した。
地裁は、Mirowskiが侵害を主張している当事者として、侵害の事実を証明する責任を負うと判断した。非陪審審理の後、地裁はMirowskiが証明責任を果たさなかったと判断し、Medtronicの製品は特許を侵害していないという確認判決を下した。Federal Circuitはこの地裁判決を取り消し、事件を地裁に差し戻した。Federal Circuitは、ライセンスが存続していることによって特許権者による特許侵害の反訴が妨げられる場合には、非侵害および当該ライセンスに基づく間接責任の不存在を確認する確認判決を求めているライセンシー側が説得責任を負うと判断した。最高裁は裁量上訴を受理した。
最高裁は、Federal Circuitの判決を覆し、ライセンシーがライセンスを受けている特許をライセンシー製品が侵害していないことを証明するために特許権者を相手取り確認判決を求めている場合には、特許権者が侵害問題に関する説得責任を負うという判断を示した。
機能を説明する文言はクレームの限定と判断されたケース
Federal Circuitは、NAZOMI COMMUNICATIONS, INC. v. NOKIA CORP. (Appeal 2013-1165) において、非侵害の略式判決を与えた地裁の判断を支持した。
原告である上訴人Nazomiは、被告である被上訴人のWestern DigitalおよびSling Mediaなどのハードウェア製造企業を、ハードウェアを用いたJava仮想マシン(以下「JVM」)に関する関連する特許2件を侵害しているとして提訴していた。どのクレームも、JVMスタイルのスタック型命令セットと従来のレジスタ型命令セットの両方を処理する能力をもつCPUについて記述していた。Western DigitalとSlingは、レジスタ型命令セットを処理しスタック型命令セットを処理するための「Jazelle」というハードウェアを内蔵するARM CPUを搭載した装置を販売している。しかし、ARM CPUのJazelleハードウェアは、当該製品の製造者がARMからさらに「JTEK」というソフトウェアをライセンスし、このソフトをCPU上にインストールしなければ作動することができない。Western DigitalとSlingはJTEKソフトをライセンスしておらず、自社製品のARM CPUにインストールしてもいなかった。Western DigitalとSlingは、非侵害の略式判決を求める申立てを堤出し、どのクレームもCPUがクレームされている機能を実行することを要求しているが、侵害被疑製品である自社製品はその機能を実行していないと主張した。Nazomiは、当該クレームは、問題の装置が実際に処理することがあるかどうかにかかわらず、スタック型の命令を処理する能力のある一般的なハードウェアを対象としていると主張した。地裁は、問題のクレームがハードウェアとソフトウェアの組み合わせを要求していると解釈し、必要なソフトウェアが被疑装置上に存在しないことを指摘し、非侵害の略式判決を下した。
Federal Circuitもこの判決を支持した。Federal Circuitは、クレームと明細書の文言(例えば、「スタック型とレジスタ型の命令セット (中略) から成る複数の命令セットを実行する能力のある」CPU)を分析し、特定の機能を実行する能力のあるCPUについてクレームが記述していることを指摘した。Federal Circuitは、クレームされている機能の実行を可能にするソフトウェアがなければハードウェアが当該機能を実行することができないため、クレームはハードウェアとソフトウェアの組み合わせを要求していると述べた。また、Federal Circuitは、「特定の機能を要求するように装置クレームを構成することについては異例な点や不適切な点は一切ない」という見解を述べた。Nazomiの主張に対し、Federal Circuitは、権利主張されているクレームと、作動するための環境を記述した限定であってその後被疑装置中に存在する必要がない限定を含むクレームとの区別を示した。同様に、Federal Circuitは、本件の被疑製品と、Finjan, Inc. v. Secure Computing Corp., 626 F.3d 1197 (Fed. Cir. 2010) の被疑製品との区別も示した。後者では、被疑製品がプロダクトキーによって使用可能な状態にされた場合にのみクレームされている限定を実施することが可能であった。これとは対照的に、Western DigitalとSlingの製品では、権利主張されている装置クレームの機能を実施するために使用される追加のソフトウェアをインストールする必要があった。Nazomiは、追加のソフトウェアをイントールすることは「変更形態」ではないと主張した。Federal Circuitはこの主張を退けた。
優先権の主張には先願の具体的言及が必要と判断されたケース
Federal Circuitは、MEDTRONIC COREVALVE, LLC v. EDWARDS LIFESCIENCES CORP. (Appeal 2013-1117) において、無効の部分的略式判決を与えた一審の判断を支持した。
Medtronicは、特許1件のクレームを侵害しているとしてEdwardsを提訴していた。Edwardsは、権利主張されているクレームの優先権主張日は当該特許のパテントファミリーの米国における中間出願のうち1件の出願日である2003年4月10日よりも前ではないとする部分的略式判決を求める申立てを行った。Edwardsは、問題の特許のパテントファミリーのうち、フランスでの先願を根拠に、特許法102条に基づく無効の略式判決を求める申立ても行った。地裁は、問題の特許のパテントファミリーには「特許法119条および120条の要件を満たしていないことによる複数の欠陥がある」と判断し、Edwardsの申立てを認めた。
Medtronicは、この判決を不服として上訴し、問題の特許が119条と120条両方の要件を満たせなかったために、より早期の優先権主張日による利益を享受できなかったと主張した。両当事者は、119条または120条のいずれかに基づいて地裁判断が維持されれば、「特許の運命が決まる」ということで合意した。Federal Circuitは120条に基づいて優先権を検討することを選択した。Federal Circuitは、自裁判所が「(Encyclopedia Britannica, Inc. v. Alpine Elecs. of Am., Inc., 609 F.3d 1352 (Fed. Cir. 2010)において)『具体的言及』の要件により、『パテントファミリー内のそれぞれの(中間)出願が先行出願に言及している』ことが必須となることを最近明確にした」と指摘した。Federal Circuitは、問題の特許のパテントファミリー中の中間出願が、同じパテントファミリー中の先願特許に具体的に言及していないため、当該特許が120条に基づいて特定の先願の優先権主張日を主張することができないという点で、地裁に同意した。無効の終局的判決を出す完全な決め手となるのは優先権主張日の判断であったことから、Federal Circuitは、新規性欠如のため権利主張されていたクレームは無効であるという判断を支持した。
「受信装置」はmeans-plus-function(手段プラス機能)を示す用語ではないと判断されたケース
Federal Circuitは、ENOCEAN GMBH v. FACE INTERNATIONAL CORP. (Appeal No. 2012-1645) において、一部のクレームがmeans-plus-functionクレームであり、それらのクレームにつき優先権を出願するための裏付けがないとして、BPAI(特許審判抵触審査部)の判断を取り消し、事件をBPAIに差し戻した。
EnOceanは、自己発電型スイッチに関する米国特許に対する権利を所有している。BPAIは、Burrow引用特許に関するPCT出願を他の複数の引用文献と合わせて考慮した結果、特許法103条に基づき一部のクレームに特許性がないと判断した。EnOceanは、同社の特許は先願である親出願、すなわちドイツでの出願およびPCT出願の出願日の利益を享受する権利があり、それらの出願はBurrow引用特許の出願日よりも前に出願されていることから、先行技術としてのBurrow引用特許を排除することになったと主張した。
BPAIは、「受信装置」要素について記述している一部のクレームは特許法112条第6項にいうmeans-plus-functionクレームであり、親出願での開示による裏付けがないと判断した。これらのクレームには「means」(手段)という語がないことから、means-plus-functionクレームではないという推定を受けることができる。BPAIは、この推定にもかかわらず、これらのクレームには記述されている受信装置が構造を説明する文言ではなく機能を説明する文言によってのみ定義されていたと論じ、これらのクレームはmeans-plus-functionクレームであると判断した。次に、BPAIは、これらの受信装置に関するクレームおよびEnOceanが争わなかったその他のクレームはmeans-plus-functionクレームであり、クレームに記述されていた受信装置について明細書での十分な説明による裏付けがないため、親出願による優先権の利益を享受することはできないと判断した。ドイツでの出願に含まれていた受信装置に関する唯一の言及箇所には、「通常のシナリオは、すべてのスイッチ、例えば照明スイッチが、作動時に1つまたは複数の無線信号を発し、その無線信号が1個の受信装置によって受信され、受信装置がこれに対応する動作を開始する(中略)というものである」と述べられていた。BPAIは、この開示には、記述されている受信装置に対応する構造、材料、作用または均等物が説明されていなかったと判断した。上訴審での争点は、(1) BPAIが一部のクレームに112条第6項の適用が必要となると判断したことは誤りであったかどうかということと、(2) BPAIが一部のクレームが親出願の優先権の利益を享受することができないと判断したことは誤りであったかどうかということであった。
Federal Circuitは両方の争点についてBPAIの判断を覆した。まず、Federal Circuitは、受信装置という限定は、記述されていた機能を実行する構造の名称であることが当該技術分野において合理的に十分理解されていたと判断した。Federal Circuitは、受信装置という名称は当業者にとっては十分に確定的な構造を暗示していると論じた。よって、Federal Circuitはこれらのクレームにより112条第6項の適用が必要とはならないと判断した。次に、Federal Circuitは、「1個の受信装置」という開示によって受信装置クレームの裏付けとなる構造が十分に暗示されていたと判断した。Federal Circuitは、受信装置という構造は出願日に公知であったため、当業者であれば受信装置という用語を読むだけで発明の範囲を理解できたはずであると論じた。ゆえに、発明者には当該の受信装置の構造を明示的に説明する義務はない。よって、Federal Circuitは、優先権主張という目的上、受信装置という限定は親出願によって十分に裏付けられていたと判断した。