IKEAの著名性も家具類と無関係な商品の商標「AKEA」の登録を阻止するには及ばず
TTAB (商標審判部) は、異議申立人の商標「IKEA」と、栄養補助食品とライフスタイル関連の事柄に関する情報サービスを対象とした出願人の商標「AKEA」との間に混同が生じるおそれはないと判断したが、小売店サービスを対象としたAkeaの出願は拒絶した。
Inter IKEA Systems B.V. (以下「IKEA」) は、世界最大級の小売業者の一つであり商標「IKEA」の所有者であるIKEA Groupの子会社である。「IKEA」商標は、家具および家庭用品分野における小売店サービスの分野、第42類に分類されるレストランおよびケータリング関連のサービス、第29類および第30類に分類される各種食品、第31類に分類される植物や花、そして、第41類に分類される、家具や家庭用品の小売、人事管理、人材開発などの各種分野における教育コースやセミナーを使用の対象として登録されている。
一方、Akeaは、第5類に分類される栄養補助食品やビタミン剤をはじめ、第35類に分類される、栄養補助食品、ハーブ系サプリメント、ビタミン剤やミネラル剤を主に販売するとともに就職機会やビジネス機会の分野における助言や情報を提供する直接勧誘およびインターネットによる小売店サービス、そして第44類に分類される、栄養、食生活計画、栄養補助食品に関するライフスタイル関連の事柄に関する助言の提供を使用の対象とする商標「AKEA」の登録を出願した。
IKEAは、混同と希釈化のおそれがあることを理由に、Akeaの出願に対し異議を申し立てた。
TTABは、混同のおそれの有無を判断するにあたり、IKEAの商標が著名性を得ているのは同社の食品やレストランサービスではなく同社の小売店サービスのみであると認定した。TTABは、2つの商標は外見も商取引上与える印象も類似しているが、相互に関連のある商品とサービスは、IKEAの「人材開発」分野における小売サービスおよび教育コースやセミナーと、Akeaの「就職機会やビジネス機会の分野における助言や情報の提供」のみであると判断した。
TTABは、Akeaの栄養補助食品やビタミン剤がIKEAの商品と同じ販売経路を通じて提供されていることをIKEAが証明できなかったと判断した。さらに、TTABは、Akeaの栄養補助食品と助言サービスを購入した顧客は自分が摂取するものに気をつけていることが多く、また、商品が安価ではないことから、顧客は購入を決定する際に少なくとも適度の注意を払っているであろうと判断した。これらの要因を比較衡量し、TTABは「AKEA」と「IKEA」の混同が生じるおそれを第35類に分類される小売サービスと助言サービスについてのみ認定し、よって、第35類に属する一切のサービスについて「AKEA」商標の登録を拒否した。
TTABは、「IKEA」商標が現在著名であることについては同意したが、Akeaの商標出願日より前に「IKEA」商標が著名性と識別性を獲得していたことをIKEAが証明できなかったため、IKEAの希釈化に関する主張は退けた。
Inter IKEA Systems, B.V. v. Akea, LLC, Opposition No 91196527 (TTAB May 2, 2014) [先例となる]
「シャネル・コンドミニアム」は不可: 不動産開発業者が不動産・建設サービスに関連する高級ブランド商標の使用を阻止される
Jerzy Makarczyk氏は、不動産開発および商業・住宅・ホテル施設の建設サービスに関連し、「CHANEL」という商標の登録を出願した。Makarczyk氏は、高級賃貸施設に「Hermes」、「Dior」、「Givenchy」、「Versace」などのブランドにちなんだ名前を付けていた。
Chanel, Inc.は、国際的に知名度の高い高級ブランド「CHANEL」の所有者である。米国では、この商標は1930年代初頭から衣料品、せっけん、香水、腕時計、ハンドバッグ等の商品に使用されている。Chanelは、不動産サービスに関連してこの商標の使用や登録を行ったことはない。
Chanelは、識別性を弱めることによって商標が希釈化されるおそれ、混同のおそれ、そして虚偽の関係示唆を理由に、Makarczyk氏の出願に対し異議を申し立てた。TTABは、出願人が提案している「CHANEL」の使用により、Chanelの「CHANEL」商標の識別性が弱まり希釈化されるおそれがあると判断した。TTABは、Chanelのその他の主張については判断を示さなかった。
Chanelは、希釈化の主張を認めさせるために、自社の商標が著名性と識別性を有することを証明しなければならなかった。著名商標とは、一般大衆がその商標を見たときにその名称をまずその著名商標の所有者と関連付けるような「誰もが知っている名前」をいう。また、識別性のある商標とは、その商標の所有者が製造したのでない商品やサービスに表示されていても、一般大衆がその名称をその商標の著名な所有者と関連付けるものをいう。
TTABは、Chanelが提示した同社の商業的成功、同社の商品の売上が極めて高いこと、多額の広告費をかけていること、ソーシャルメディアでのキャンペーン、有名人による推奨、そして「CHANEL」が最も知名度の高いデザイナーブランドの一つであることを示す調査証拠およびランキングなどの証拠に基づき、「CHANEL」が著名商標であると認定した。「CHANEL」という商標には本来的識別性はないが (創業者ココ・シャネルの名前に由来している)、TTABはChanelが堤出した証拠によって同商標が識別性を獲得していることが証明されたと認定した。
Chanelはこの他に、Makarczyk氏によるこの商標の使用によって自社の商標の識別性が希釈化されるおそれがあることも証明しなくてはならなかった。TTABは、2つの商標がよく似ていること、「CHANEL」が消費者の間で高度の識別性と著名性を有すること、Chanelが「CHANEL」を実質的に独占使用しており、また、この商標を保護するために多大なリソースを費やしていること、そして、Makarczyk氏のウェブサイト上のいくつかの記述により証明されるとおり、Makarczyk氏の側にChanelが所有する商標との関連付けを生じさせようという意図があること、といった複数の要因に基づき、希釈化のおそれがあると判断した。
さらにChanelは、同社の商標の著名性が損なわれるおそれがあることも証明した。Chanelは、Makarczyk氏が高級不動産サービスに関連し「CHANEL」を使用すれば、Chanelのブランド価値を低下させることになると主張した。Chanelは現在のところ不動産やホテル業界には関わってはいないが、他の高級ブランドはホテル、インテリアデザインサービス、バスルーム用設備などの業界に進出している。TTABはこの主張が、Makarczyk氏が不動産サービスに関連して「CHANEL」の名称を使用すればChanelが被害を受けることを十分に証明していると認定した。
Chanel, Inc. v. Jerzy Makarczyk, Opposition No. 91208352 (TTAB May 27, 2014) [先例となる]
宗教・政治・商標: 不成功に終わった組み合わせ
Federal Circuitは、かなりの数に上るアメリカ人イスラム教徒の集団を誹謗するおそれがあることを理由に、TTABによる「STOP THE ISLAMISATION OF AMERICA」という商標の登録拒否を支持した。
上訴人は、テロリズム防止に関する情報の提供に関連し使用するために「STOP THE ISLAMISATION OF AMERICA STOP THE ISLAMISATION OF AMERICA 」の登録を出願した。PTOは、アメリカ人イスラム教徒を誹謗しまたは被害を与えるおそれがあることを理由に、この出願を拒絶した。TTABは、「Islamisation (イスラム化)」という用語の宗教的および政治的な意味と、それらの意味が誹謗的なものかどうかを検討した末に、出願拒絶査定を支持した。TTABは、宗教的意味においては、イスラム化 (イスラム教への改宗) を阻止せよ、という警告は改宗を望ましくない行為と示唆するものであるため、この商標が誹謗的なものであると認定した。さらに、政治的意味においても、非宗教的な法律に替わってイスラム法を採用すること (イスラム化) には暴力またはテロリズムを要すると関連付けているため、この商標が誹謗的なものであると判断した。
上訴人は、Federal Circuitへの上訴において、TTABの認定を裏付ける実質的証拠はなく、「Islamisation」の政治的意味がこの商標について考えられる唯一の意味であると主張した。
しかしFederal Circuitは、「Islamisation」には宗教的・政治的な両方の意味があるとしたTTABの審決を裏付ける実質的証拠があると判断した。TTABの審決は、辞書、上訴人のウェブサイトに投稿されていた評論やコメント、連邦議会での証言、教養課程で使用されている教材、そして上訴人が堤出した記事を根拠としていた。
上訴人は法廷に対し、この商標が宗教的意味において誹謗的なものであることを認めた。Federal Circuitは、TTABに堤出された資料の中にイスラム化が暴力またはテロリズムを要することを示唆するものは一切なかったため、この商標が政治的意味において誹謗的であるというTTABの認定も支持した。
In Re Pamela Geller and Robert B. Spencer (2013-1412, Serial No. 77940879, May 13, 2014, 先例となる), the United States Court of Appeals for the Federal Circuit
広すぎたターゲット: TTABが混同のおそれを認定
Artificerは、衣料品およびジュエリーに関連して使用する「Artificer」という商標と3つの輪で構成された意匠の登録を出願した。Targetは、衣料品およびジュエリーを主な商品として販売する小売店サービスに自社が使用している「標的」を模した商標 (以下「標的マーク」) と混同されるおそれがあることを理由に、この出願に対して異議を申し立てた。
Targetは、自社の標的マークに関する14件の登録商標の権利に加えて、コモンロー上の権利も主張したが、主張の対象である登録商標の現在のステータスと権原に関する必要な証拠を堤出しなかった。よって、TTABは、Targetは根拠として主張した同社の標的マークに関する14件の登録のいずれにも依拠することはできず、同社が依拠できるのはコモンロー上の権利のみと判断した。
しかしTargetは、このマークが1960年代から使用されてきたこと、アメリカ市民の96%によりTargetのマークとして認知されていること、1,700の店舗とインターネット上において使用されていること、そしてTargetが所有する数々の登録商標の構成要素として使用されていることなど、標的マークの著名性を証明する十分な証拠を提出した。
TTABは、Targetの衣料品およびジュエリーの分野における小売店サービスと、Artificerの衣料品およびジュエリーの商品との間には十分な関連があると認定した。
これよりも判断がつけ難い争点となったのは、2つの商標の類似性であった。 しかし、TTABは、Artificerの商標はTargetの標的マークの手描き版のように見えると判断し、2つの商標が商取引上与える印象は十分に類似していると判断した。TTABは、意匠の横に「Artificer」という名称を加えていても、Targetの著名な商標が与えるものと異なる商取引上の印象を生じさせるには不十分であると認定した。
Target Brands, Inc. v. Artificer Life Corp. Opposition Nos. 91206421 and 91206422 (TTAB May 2014).