「マイナーズ」紛争
テキサス大学エルパソ校 (以下「UTEP」) は、少なくとも1914年以来「MINERS」というニックネームを使用してきた。UTEPは理事会を通じて、同大学をはじめ野球チーム以外の同大学のスポーツチームに関連する商品やサービスに使用するための「MINERS」という商標とロゴに関する複数の登録を所有している。
一方、プロ野球チームのサザンイリノイ・マイナーズ (以下「SIM」) も自チームを「The Miners」と呼んでいる。UTEPは、SIMがそのプロ野球チームに関連する商品やサービスに使用するための「MINERS」という文字商標と以下のロゴマークの出願に対し、異議を申し立てた。
TTABは当然のことながら両者の文字商標は同じであると判断した。UTEPの商標登録とSIMの商標出願は、第16類に属する「メディアガイド」という同一の商品を含んでいた。さらに、両者の商標登録と商標出願は第25類に属する各種の衣料品を含んでおり、唯一の違いは、SIMの商標登録では「professional baseball imprinted」の衣料品と指定されていたのに対し、UTEPの商標登録の大半では「college imprinted」の衣料品と指定されていたことであった。TTABの意見の大部分は、「college imprinted」と「professional baseball imprinted」という文言によって商品に十分な識別性が付与されたかどうかに集中していた。
TTABは最終的に、「college imprinted」と「professional baseball imprinted」という文言は、双方とも同じ「MINERS」という商標が衣料品に印刷されることを意味しているに過ぎないと判断した。係争対象となった商標登録は、いずれも販売経路に関する制限を含んでいなかった。したがってTTABは、両者の商品は同様の販売経路を通じて同様の購入者クラスに販売されるであろうと判断した。TTABは、第16類と第25類に属する商品に両商標が使用された場合には混同のおそれが生じるという結論を下した。TTABはSIMの出願をプロ野球関連のサービスについてのみ認めた。
また、TTABは、商標法18条に基づくSIMの反訴についても検討した。SIMは反訴の中で、「college imprinted」という制限を含んでいなかった1件の登録の対象品目となっていた衣料品にこの文言を追加することによって商品およびサービスを制限するなどの措置による、UTEPの登録の部分的制限を求めた。SIMが反訴で勝訴するためには、除外を求める商品やサービスについてUTEPが当該商標を使用していないこと (これは真実であった)、また、この制限を設けることによって混同のおそれがあるという判断を避けられることを証明しなければならず、そのためには「つまり、そうした制限は『商業的に意味のある』ものでなければならない」。TTABは、「college imprinted」という制限を追加しても第16類と第25類に属する商品に関しては混同を防げないであろうという判断を既に下していたため、当該の制限は商業的に意味のあるものではないと裁定した。
The Board of Regents, The University of Texas System v. Southern Illinois Miners, LLC, Opposition Nos. 91183196 and 91183698 (TTAB March 13, 2014) [先例となる].
商標を登録することの重要性: 後使用者が先使用者よりも広い権利を獲得
Terra Sulは、1996年にニュージャージー州ニューアークで「Churrascaria Boi Na Brasa」という名前のレストランを開業した。Terra Sulはこの商標を登録するための出願を行わなかった。
1999年に、Terra Sulのニュージャージー州のレストランの存在を知らずに、「Boi Na Braza」 (以下「BNB」) が「Boi Na Braza」 という名前のレストランをダラス、アトランタとシンシナティに開業した。BNBは、「BOI NA BRAZA」という商標と下に示す「Boi Na Braza」という語を組み入れた図形商標の登録を2002年に取得した。Terra Sulはやがて、BNBの「BOI NA BRAZA」という文字商標が登録されていることに気付き、Terra Sulの先使用商標と混同されるおそれがあることを理由にその登録を取り消させることに成功した。Terra Sulは、BNBの図形商標の取消しを求める請願は堤出しなかった。
今回の事件で争われたのは、Terra Sulのレストランがあるニュージャージー全州を除いた米国全土を対象とするという地理的制限付きで「BOI NA BRAZA」という商標の登録を求めるBNBの新規出願であった。BNBはこの出願によって同時使用審判手続を惹起することとなり、この審判においてTerra Sulは、BNBの登録が完全に拒絶されるか、対象地域をBNBが実際に営業している3つの地域に制限し米国の残りの地域を先使用者であるTerra Sulの権利対象地域とすべきであると主張した。
TTABは、BNBにはニュージャージー州とニューヨーク州を除く米国全土を対象として「BOI NA BRAZA」を登録する権利があると裁定した。この事件は、地域的制限が設けられている同じあるいは類似した商標の登録を二者が同時に所有することを認めるための以下の条件を満たした。(1) BNBがTerra Sulが同社の商標を使用していることを知らず、BNBがTerra Sulが同社の商標の登録を出願する前に自社の商標を誠実な意思で採用したことから、両者には各自の商標を商業において同時に使用する権利があり、かつ、(2) 実際に混同が生じたという信憑性ある証拠がなく両者が15年間共存してきていることから、サービスの供給元に関して混同が生じるおそれがない。
次にTTABは、それぞれの当事者の権利対象地域の境界を決定しなければならなかった。先使用者であるTerra Sulは自社商標の使用を1996年以降拡大しておらず、また、連邦登録を出願したこともなかった。後使用者であるBNBは連邦登録を出願した。さらにBNBは、上に示した「BOI NA BRAZA」という語を組み入れた図形商標の登録を所有しており、その登録は不可争性を獲得していた。Terra Sulには、この登録に対し先使用権を根拠に異議を申し立てることはできなかった。したがってTTABは、BNBには、Terra Sulが先使用権をもっていた地域を除く米国全土を対象として「BOI NA BRAZA」という文字商標を登録する権利があると裁定した。Terra Sulは、同社の評判がニューヨーク州にまで及んでいることを示す十分な証拠を堤出したため、TTABはニュージャージー州に加えてニューヨーク州をBNBの登録の権利対象範囲から除外した。
Terra Sulが、BNBの商標の先使用日よりも前あるいはBNBがその商標の出願を申請する前に自社の商標登録を出願していれば、BNBが問題の商標を使用することを完全に防ぐことができたか、BNBの商標使用対象地域をTerra Sulの出願申請時にBNBが営業していた地域に制限することが可能であっただろう。
Boi Na Braza, LLC v. Terra Sul Corporation a/k/a Churrascaria Boi Na Brasa, Concurrent Use No. 94002525 TTAB March 26, 2014) [先例となる].
「Pretzel Crisps」は一般名称
Princeton Vanguard (以下「PV」) は、「プレッツェル・クラッカー」商品に使用する「PRETZEL CRISPS (プレッツェル・クリスプス)」という商標の補助登録簿への登録を、この商標から「pretzel」という名称を分離して使用する排他的権利を放棄した上で2005年に取得した。 PVはその後、プレッツェル・クラッカーに使用する「PRETZEL CRISPS」を主登録簿に登録するための新規出願を申請し、この商標が識別力を獲得していると主張した。
Frito-Lay North Americaが提起した異議申立て事件において、TTABは「PRETZEL CRISPS」という名称がプレッツェル・クラッカー用の一般名称であるかどうかを検討した。TTABは、プレッツェル・クラッカーに関連する「PRETZEL CRISPS」という組み合わせ名称には、構成要素自体の意味以外のさらなる意味はなく、したがって、同名称が一般名称であるかどうかは「pretzel」と「crisps」の意味と用途を検討することによって分析すべきであると判断した。Frito-Layは、競合他社やその他の第三者による使用例を含めた、「crisps」がクラッカー用の一般名称であることを証明する有力な証拠を堤出した。PVは、クラッカーの中には「crisp」な (カリッとした) ものがあることさえ認めた。さらにPVは、自社の「PRETZEL CRISPS」商品の包装上で、一人前の分量として明記した「crisps」の枚数に含まれる栄養成分を表示するのにも「crisps」という名称を使用していた。
両者ともアンケート調査結果を証拠として堤出したが、そのいずれも当然ながら異なる結論に到達していた。TTABはFrito-Layのアンケート調査結果を信頼性が低いと批判したが、分析の中ではいずれのアンケート調査結果もあまり重視しなかった。「crisps」 はプレッツェル・クラッカー用の一般名称であるという判断を下すにあたり、TTABは辞書の定義と、市場でこの名称がクラッカーを指すのに使用されている例を示す証拠に依拠した。
Frito-Lay North America, Inc. v. Princeton Vanguard, LLC, Opposition No. 91195552 (TTAB February 28, 2014) [先例となる].